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日がてっぺんまであがりさらに
西へ折り返していこうという時間、
日曜の公園は
やはり人少なく猫や鳩と
老夫婦の溜まり場となっていた

思いっきり駆けたので
私はよろめきながら額に汗をにじませていた

大きい公園だけあって
沢山の青々とした
緑の植木があり
柔らかい
冬の風になびいている

水道のある入り口から
白っぽい砂がのぞく

一度、願うようにぎゅっと瞳を閉じて
フェンスを触りながら
ゆっくり
公園へ入った

一歩二歩、まだ見えてこない
もう少し先・・
そこにゴミ箱が見えてくるはず

ベンチの向こう側にゴミ箱が・・あった

それと


ゴミ箱の前に座り込んでいる
かかしがいた。

ちょうど私が立っている
方向を向いていたから
すぐ気配に気付いたようだ
こっちを見ると
ちょっと驚いて目を伏せたけど
すぐさまここぞとばかりに睨んできた

その目は朝の冷たさと違って
あきらめに似た色があった

かかしの反応を待って
私はようやく普通に動けるようになった

ベンチの側までいくと
かかしはこっちを見ずに
手サインを作って挨拶した
もう一方の手にはプレートと
針金が
そこらには某良品店の袋がちらばっていた
ステージで着ていた
真っ白いブカブカのズボンは
土に触れたせいで半分茶色に染まっていた

眠たいに違いない
髪の毛は朝と変わらず綺麗に結ばれて
美しい光沢を出しているけれど
目はうつむくと閉じてしまっているように見える
もう本当は閉じてしまいたいのかも知れない
でもその顔も優雅な一つの絵のようだ
そのうち
ちょっと首を傾けて
プレートをゴミ箱に添わせる
口元をふっと上げて オッケー、と言った

私は堪えられなくなって言ってしまった

かかしって バ、カ正直だよね


かかしは特に気にする様子もなく
目を両手で押さえてグっと力を入れると
今度は思いっきり背伸びして空を見上げた

それから1秒としないうちに
即座に立ち上がると
あっという間に見下ろされてしまった


「何?それ言いに来た の?」

上から髪をぐしゃぐしゃに撫でられて
胸が一気に締めつけられる


かかしはすぐに手を止め
苦笑いしながら唇を噛んだ
そして私と目を合わせず
後ろを振り返ると手を振った


好きなの

好きだけど こんがらがってうまく言えない
色々間違っちゃって・・ 私が全部悪いよ


これだけ言うことがものすごく苦しかった
これじゃ伝わらない事も分かってたし
でも胸にある気持ちは膨大でとても言葉に出せない
好き それだけは伝えたかった


かかしは手を振るのをやめて
こっちを向かず肩で怒りを表すように
じっとして、はい はい とだけつぶやいた


――20分前、2人組の女の子達を
追いかけ呼び止めた
ちょっと待って、と前に立ちふさがると
怪訝そうな顔されたけど躊躇はしなかった

かかしが説教していたのは
朝、私に声を掛けてきた会社員だった
地下道路で延々と
その中年男性に怒り口調で
話しているのを見たらしい

きっと追いかけてきた時、
肩に手を掛けた所を見たんだ
私はフラフラで
駅に着くことばかり考えていたから
立ち去った後でそんなことがあったなんて
想像もしなかった



曲がったことが嫌い
かかしのそうゆうところが好きだ
時として強引だけど
悪いと思ったら平気で説教するし
ゴミ箱壊したことだってほっとけない
そんな頑固でまっすぐな
かかしが本当に好きだ

だから

今、私がかかしを止めても
気持ちをどう伝えても 
今まで
付き合ってきた子達の言葉と変わらない
惜しくなってまたヨリ戻そうとか
そうゆう気持ちと何も変わらない
かかしは どんな言葉も きっと受け取らない

今までの楽しかった時間
かかしが私を大事にしてくれた時間
一緒に過ごしたわずかな時間
それを台無しにした代償は・・・

泣きそうになったけれど
これ以上嫌な思いをさせたくなかった


かかし、駅での説教目撃したコ達に
   「がつん」と言ってやったから。笑うな!って

笑顔で言ったつもりだけど
(笑)マークはきっと入らないくらい
それとは程遠い響きになった


震えた声が響き終わると
やっと、かかしが振り向いた
久しぶりに見たような気がする
笑顔のかかしだった
ただ一つ、違うのは
私を見る瞳が
もうお互いに通うことない何かを
ひしひし体に感じさせたこと


疲れたからひざ枕して


もう限界というように
ふわりともたれかかってくる
かかしに言われるまま
ベンチに腰かけた
私達は一言も交わすことなく
日が陰ってくる頃までそのままで
周りに揺れる草も花も
通りすがるカップルも
皆、色褪せた石像のように見える
彼の目にはどう映っているのだろう

今 この瞬間を忘れない
絶対忘れない

寒さが増し始めた3時半、
かかしはすっかり眠ってしまった
かかしのポケットから携帯を探して
エンジに電話をかけた

幸い、まだ大阪を離れていなかったので
一緒に帰ってもらうことになった


今日という日は
一番長い日かもしれない

そしてもう二度とこない日


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夕日に照らされたかかしは
やっぱりかっこよくてきれいだ
私のお腹に顔をうずめるようにして
よく眠っている
長いまつ毛が呼吸に連動して
上下にかすかに揺れる
鼻がコートに隠れてスース―
小さな音を立てた
私、あなたのお母さんなら
離れなくてよかったのに
あ、でも
彼女ができるんだ
やっぱり堪えられない

小さくつぶやいたら
何だか我慢できなくなって
かかしの頬に一粒雫を落とした

私の着ていたコートを
何の防寒にもならないけれど
かかしの上半身にかけて
エンジ達と入れ違いに公園をあとにした



 




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