本格的な冬の到来を匂わせる 11月終わり頃、 大阪心斎橋にある クラブの中 ２３日は友人、ハルキの誕生日で 開店前に皆で集まってお祝いをした 昼過ぎからビールの応酬だった 彼の成長はめざましく ２つのクラブに レギュラーを持っていて 某アーティストのコンピレーション アルバムにピンで参加したりしていた あれ以来ツタとも連絡を取っているようだし もっと大きなハコで 活躍できるようになると思った ハルキはまっすぐな性格で社交的で 表情も豊富なのでいつまでも見ていたい気にさせる よくモデルっぽいと言われるのが 気に障るらしいけど 実際、端整な顔立ちだ。 下積みが５年以上なだけに スキルはしっかりあり、 それ以上に才能を感じる。 男性としてもDJとしても 申し分ない、自慢の友達だ ただ一つ悪い所を挙げれば女癖の悪いことで 近頃は友達の中でも 会う回数は私が一番多いと思う それでもその三回に一度は違う女性を連れている 本命という彼女もいないようだし ハルキは私の家に勝手に来て レコードや食料を持っていく 時にはソファでいつまでも 漫画を読んでいたりする そういう状態が続いている 以前は玄関をくぐらせる事すらなかったけど もう一ヶ月も経ってしまった 自分で終わらせてしまったのに 気分は振られたのよりきっと最悪で 納得できなくて でも、何もできない自分がいて 電話しようかと何度も思った だけどその度に かかしの冷たい目を思い出したし 今誰か彼の側にいるのが 分かってしまったら立ち直る自信がない 声が聞きたい 笑顔が見たい 触れたい 話したい 毎日それだけ考えて過ごしたように思う 誕生日祝いが終わると いつものように雑音を楽しんで 軽く踊った後、早めに帰途に着いた。 珍しく一滴も酒を摂らなかった 少し熱っぽかったせいかも知れない 冷えきったワンルームは真っ暗で 冷蔵庫だけが低い音を立てている 電気をつけるのも空しくなって そのまま薄明かりを頼りに ベッドに飛び込んだ 深夜だ 何時かは分からないがそれは確かで 寒気のする体をシーツに無理矢理くるんで 隙間から顔だけを出した なかなか寝付けず TVをつけてぼーっと眺めていると 歌番組が始まった。 暗い部屋の中にTVのまばゆい画像だけが 刻々と色を変えて映る それからオープニングテロップに 「huvcool」の字が流れた ！！ かかしを一目でも見たいけど 正直、見たくないのが半分以上。 TVを消そう、そう思って 手探りでリモコンを探しているうちに 番組が始まってしまったので 一気に悲壮感に襲われた だけど画面に目を移した時には もっととんでもない衝撃があった 「こんばんわ この通り、髪切りました～ハハ」 ブラウン管の中の人は 一瞬別人だと思った あの背中まであった黒い髪は すっかり跡形もなく 耳にすらかからない長さになっていた 色は銀色に変わっていて 少しパーマを当てて立たせているようだった TVを見ている人には たいした違和感はないかも知れない だっていつも 後ろできっちり結んで その上に帽子を被ったりしてたから 気付かない人もいるぐらいだろう でも私にとっては 髪をおろした姿は見慣れたもので 家にいる大半はそうして過ごしていて 私自身よくあんであげたし 三つ編みして遊んだりした髪で 初めて会った時から ずっと目にしてきた黒髪 あの公園で朝陽に照らされた時の髪 薄暗い部屋の中の漆黒色した髪 夕日にあたって仄かにオレンジに変わった髪 すべてがかかしの象徴だった 無性に悲しくて涙が出そうになった でも笑っているかかしを見て 楽しそうに喋っている彼を目の当りにして 嬉しくて切ない自分もいて それがさらに涙を呼び出してきた 泣きたくないのに止まらなかった。 ぼやけてかかしが見えない どんどんと溢れてどうしようもなくて 顔をシーツに強く押し付けた ティッシュを取りに行こうと ベッドに手をついた時、 ふいに携帯のバイブが鳴った 一瞬頭に浮かんだのは まともに声が 出るかってことだった。 このあまりにもグッドタイム・・ いやバッドタイミングな呼び出しに 額を押さえながら出ようかどうか しばらく思案した 携帯は テーブルに発光しながら 依然、揺れていて その一帯が幻想的なイルミにまとわれる 急に 変な期待を頭によぎらせてしまった 着信音なら誰かすぐわかるのに バイブはやたら想像を広げてくれる もう深夜、というより 明け方の呼び出し音 私はシラフなことを後悔して テーブルへ向かった つづく トップ