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正直この頃は
語ることはあまりなく
特に、12月の前半は
仕事が生活の全般を占めていた


とはいえ
月も中頃になると
すっかり街はざわめきたっていて
この私も慌てていた

仕事帰り、
もう閉店してしまう店も多い中
服屋を目指し走っていた


私の普段の格好と言えば 
色落ちして破れたジーパンとパーカーが
主流というナスティな格好だった

とくに意識しているわけではない。
でも、エンジに会うのに
この格好はまずいと思った。
エンジは「スタイル」や「ビフォー」に
結構出るくらいお洒落好きで知られている。

彼が何の目的で大阪にくるのか
どうして私を誘ったのか
それは全く見当がつかないが
彼に会いたくないわけじゃない
むしろ、興味はすごくあった。


19時50分に 
ギリギリ滑り込んだ

店に一歩入ると
外の刺すような冷気と打って変わって
柔らかくて暖かい空気が頬を包む。
と同時に聞き慣れた音が耳を通過する
 
店内に'huvcool'が流れている
クリスマスをイメージしたその曲は
店のホワイトツリーのヴィジュアルと
よくマッチングしていた
閉店間際だったけどこの時間にきて
よかったとささやかな幸せを感じた

そうして2秒ほど恍惚としていると
店員が満面の笑顔で寄ってきた

yallの店員、長身173cmの彼女は
静花といって、古くからの友達だ。
モデルのように背が高くすらりとしていて
並んで歩くと自分を子供のように感じてしまう

「あら、来ちゃったんだ。」

そう言いながらカウンターの奥から
ビニルに包まれた白いワンピースを
店員らしく、両手で大事そうに持ってきた。

そうして 
今日来なかったら
他の人に売っちゃう所だったよ、と
口に人差し指を当ててウインクされてしまった

私が目に止めた物は
必ず取って置いてくれる。
それはいつものことでよく分かっている

シニヨンでまとめた後ろ髪がオトナっぽい
つい見とれてしまうくらい綺麗な顔をしている
彼女は私の憧れかも知れない
元々東京育ちの彼女は
身のこなしや口調も格好いい

しばらく今日の出来事を話し合って
忘年会の約束をすると私は店を後にした


家の前まで来ると
ワンルームマンションの二階にある
私の部屋の窓から
光が漏れていた

ハルキだ

その日の仕事は
少しばかりの疲労で済んだのもあって
部屋で小悪魔が待っていると知っても
精神的に落ち着いて
玄関のドアを開けることができた





今頃言うのも何だけど
一度だけかかしと買い物に行った事がある。

人通りの多い竹下通りでは
さすがにかかしも
サングラスと帽子を着けていた。

普段ゆっくり買い物できないのか
瞳はショーウィンドウに釘付けだった。
口を少しとがらせて、
興味深そうに見つめながら
一軒一軒過ぎていく。


当時、私が着るのは黒い服ばかりで
流行のピンクや白の
可愛らしいスカートを見ると
かかしは、すぐに財布を出して
買いに行きそうになった。
嬉しかったけど、正直
彼の前で穿くことはないと思った

出会ってから一度も気を抜いた事がなかった
いつでも大人っぽく、冷静に。
実際はできてなかったかも知れないけど


でもそうゆう気の詰め方は嫌じゃなかった
少しでも
かかしの思うような
女性になりたかったんだと思う













つづく
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