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昼ご飯を取る間中、
窓から外を見ていた。
時計はゆるやかに音を立て
午後1時を刻んだ

空は快晴で雲が少ない。
青々として部屋の中へ
光を運んできた

何かがどこかで、
私の知らない事が起きている。
そんな不安感が体を支配して
一人胸を鳴らしていた。
でもそれが何か分からず
行動に移すこともできない
釈然としない感覚に唇を噛んだ

用事は済んでしまったので
これから何をしようか
どうやって暇を潰そうか
空しく考え始めた

一日などこんな風に
無駄に過ぎていくだけで
今更ながら
休みを取ったことを
後悔していた

テーブル上を片付けると
ふとやり残したことに気付く。
というより見ないふりをしていた

服の整理。

ベッドと反対側の壁掛けと
その下の床には
コートやセーター、
使っていないブーツが
山積みになっている。
そちらを向いただけでも
気持ちが沈むくらい乱雑だった。
とりあえずクローゼットから
収納用のキャスターを引っ張りだして
空きを作りながらその間に
無理やり詰めていった。


最後に、一着だけ残っていた

できれば触りたくない
と思っていたそのコートの
襟元に手をかける

そんなに怖いのか、と聞かれた。
かかしは私が怯えていると思った
だけど
出会ってから今まで
怖いなんて一度も思ったことない。
ゴミ箱蹴って出て行った時も、
KARTで無視された時も、
低い声で別人みたいで
横に座った時言われた言葉も、
どこか優しさを捨て切れない
その仕草に
むしろ切なくなるばかりだった

恐かったのは
触れること、
触れられること、
そして 貴方が去ってゆくことだった

早朝の公園、
結ったゴムの先から
ほつれ出た毛が
後ろから上がってくる太陽に
照らされて光ってた
何の躊躇もなくブランコの
鎖に手を置かれて動揺したのを
昨日の事みたく覚えてる

もう真近に会うことはない
そう思うたびに
嘘みたいに出会った

居酒屋に行った時
本当はとても眠そうだった
だけど沢山話してくれた
それと目一杯注文して
結局料理はほとんど残ってた
一緒に居たいな、って
言った時の顔は
正直思い出せないけど

寒空の下、アスファルトの上で
初めて手をつないだ時に
初めて見た、心を許した顔

三度目に部屋を訪れた日、
温め直したお粥は
ふにゃふにゃで
何これ?!って
言いながらも食べてくれた

近くのファミレスに
行った時は
機嫌が良くなくて
ずっと黙ってた。
今思えば曲のことばかり
考えてたのかも知れない

家の前で
二人組の女の子が
部屋の方を眺めていて
入るに入れず迂回した事もあった

TVを見ていると
最初はソファに座っているんだけど
すぐに腕組みしたまま寝転がった
妙な癖があってちょっと言えないけど
そのせいで私は長居できずいた

打ち上げの日、
知らない人ばかりのいる
店に呼ばれて不安だったけど
手をつないで
席まで連れてってくれた事が
本当はすごく嬉しかった

地元の公園で夕焼けが
頭から足先まで赤く染めて
彼の体はその時私一人のもので
このまま時間が止まればいいなんて
身勝手な思いを抱いたあの日


どこをどうとっても
嫌な思い出なんてない。
他人からワガママ自己中と
言われようと
私には関係ない。
出会ってからずっと
フラストレーションして
どんどん愛しさが増していく

最後に私が
着せかけたこのコート、
あの日魔法がかかるように願った
私を忘れないで。見る度思い出して。
でも結局、何の効用もなく
返されてしまったけど


人は悲しいと
急に現実に戻るらしく、
目の前の荷造りを
何とか終わらせなければと
最後の作業を開始した

手に取ったままのコートに
シミなどないか確認する
クリーニングに出そうか、
それとももう着ることなく
しまっておくか。
いずれにしろ
捨てるという概念は浮かばない。
よくよく見ると
いつひっかけたのか記憶にないが
裾部分にほつれが出来ていて
白い糸がひらひらと揺れていた

この程度なら自分で
補修できると思い
裾を持ち上げてコートを逆さにした


その時、足元に
スリッパの上に音を立てて
何かが落ちた

あまり衝撃もないそれに
私は大きく跳ねた。
ネズミか何かと思ったからだ。
家を放置するあまり
鼠の巣窟になっていたのか
と混乱しながら
数歩後図さって恐る恐る見る


フローリングの上に
ぽつんと何かが落ちていた

白くぐしゃっとした
物体は紙のようで
生き物ではなかった。

それでもまだ信用できず
辺りを見回した。
油断した所で
あのミミズのような尻尾を
発見したら気絶するかも知れなかったから

数分はコートを抱きしめたまま
その場に固まっていた。
だが生物の動く音は何も聞こえなかった


若干だが安堵して
今度は紙の正体が気になり、
近付いてみた。
どうせ領収書か何かだろう
だが、落ちてきたとうことは
ポケットに入っていたのだろうか?
そうゆう癖はあまりないので
少し不思議に思いながら上から覗く


明らかに紙だ。
でもこの中にゴキブリとか
入ってないだろうか?
長く放置していたので
あり得なくもない。
頭の中はすっかり
鼠や虫に対して怯えてしまっていた


多少丸みを帯びた
無造作に包まれた紙を
拾いあげずそのまま、
警戒しながらゆっくり開いた。
大きさと厚さからして
領収書ではないとすぐ分かった。
紙の色が劣化して少し
黄色みを帯びていた


端も持って開くと
意外に一辺が
大きいような気がした

紙が静かな音を立てる

やっと収まりかけた心音が
今までにないくらい上がりだして
自分で何なのか分からなかった
小学生の頃に
音楽の授業があるのに
たて笛を家に忘れて、
机の中に手を突っ込んで冷や汗が出た
あの時に似た

めくれた紙の内側に
灰色のラインが見えた


五線 

五線紙。

そんな名前だったような気がする
だけど
私にはこの紙は
見覚えがない。
持ち合わせたこともない。
それでも正体を知らねばならない
何故かそんな気がして
紙を床から取り上げた






つづく
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