持ち上げた瞬間、
紙の間から何かが落ちて
床に軽く音がした。
緑色したそれは
私の手のひらでもすっぽり
包み込めそうな大きさの
丸い形をしたケースだった

ガラスからの太陽光線で
皮っぽい質感の緑が
強調していて、
私は落ちた音がしてから
立ち上がったまま
それを直視し続けていた

紙は
緑の物体が落ちたおかげで
すっかり軽くなり、
そのはずみで
つぼみみたいに開きかけている

白い譜面と灰のラインが
延々と続いているように
見えたけれど、
紙を指先で軽く広げると
黒が見えてきた。

ボールペンか何かで書かれた
その字に見覚えがあって
「これ」という平仮名が見えた時点で
思いっきり紙を閉じた

立っていられなくて
床にへたり込む。
目線が低くなると
緑の箱のようなケースが
ぎらぎらと光を反射してきて
再び紙を開いた

     これ クリスマ  
      何 書いて
        いいかわかんねーから      
 と りあ えずピース    PSまた電話する
   
         
こんな感じで、
書きなぐったのか
走ったようなジグザクな文体。
紙が皺くちゃなせいもあるかも知れない。
尖った独特なフォルムの
手書きの字。
文字の形が懐かしかった。

クリスマ――ス
上から何重も線で消してあったけど
何とか読み取れた。

電話する、って
書いてあるけど
一度もしてこなかったよ。

でも問題は全然そこじゃなくて
そんな事分かっていたけど
許容するのにとても時間がかかった

ピース
彼のとても好きな言葉

昨年の末、
12月23日、
だと思っていた。
半年間、知らずに
眠っていた紙。



外を見るといつの間にか
空一面にすごい速さで
厚い雲が広がっていた

色合いは灰と白の間で
今にも降りだしそうな顔をしている

それを見た途端、
弾かれたように
五線紙と緑のケースを
一手に掴んで、立ち上がり
玄関を目指して駆け出していた





つづく
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