その頃、ハルキはDJとして
頻繁にハコに出るようになっていた
その頃というのは
私が再就職した秋の終わり口である
街には少し気の早い
クリスマスグッズが並べられ
アーケードはニットやセーターで
埋め尽くされていた

ハルキに毎回チケットを渡され
彼が出る日は必ず参加していた
才能がどうとか、私には
分からないが
彼のパフォーマンスは楽しく
必ず皆を沸かせた

あの日会いに行って以来、
アルバムの完成度が高まるにしたがって
かかしと会う機会が増えた
何度かかかしの家へ行ったり
一度だけ近くのファミレスで食事した
彼の知名度は確実に上がっていたし
時には家の前まで見に来る人もいた

周りを気にしながら
部屋にあがるのは
悪い事をしているようで
少々罪悪感を感じた

いつでも時間が無くて
私の方も深夜にしか行けなくて
でもかかしは優しかったし
時には喧嘩になったけど
最後には堅く握手をして別れた

未だに彼のベッドを温めた事はない
経験がないわけじゃなくて
でもどうしても 恐かった
かかしも強引に誘う事はなかったし
それを見ると他に対象となる
女性が居るんだと思って
変な話、安心していた

かかしと
出逢ってから一年が来ようとしていた



10月24日
大阪のホールでライブがあった
私は久々に地元に来たので
見に行く事にした
ライブがはねると
次は同じホールでナイトが始まる
18歳未満は入れない

深夜1時 
いつもの如く最後方で眺めた。
酒を軽く煽り、高校生みたいな
女の子達が飛び跳ね絶叫するのを
ぼーっと見ていた
かかしの声が聞こえる
皆を楽しませている
この時ばかりは
かかしは私のものじゃない
いや、いつでもかかしは私の懐なんて
おさまってないんじゃないか

疎外感を感じた
嫉妬とかじゃなく
かかしと馴れ合う恐怖みたいなものを。

隣に酒を取りに来た男がいた
ツタだ!
そういえばゲストで来ると言っていた
もう私の事は覚えてないだろうと
思いながら酒の入ったコップを渡す。
ありがとう、
と普通に挨拶されてしまった
私が かかしと居る証は
どこにもない
ツタも他のメンバーも
ハルキも誰も知らない。



けどこの日は違った
ステージが終わった後、携帯が鳴った
かかしからだった
打ち上げに連れて行ってくれると
言った。



大阪でもあまり知られていない
穴場の居酒屋へ来るよう言われた
あまり早く着くと悲しいので
わざと環状線を遠回りした。

店に着くと中は大混雑で
誰がどこに居るのか分からなかった
店に入ろうとすると店員が、
今日は貸切になっているので
と言った
私は大丈夫かなと思いながら
かかしの名前を出した
かかしがまだ来てなかったらどうしよう

だが即座にかかしが出てきた
皆酔っ払っている様子でこちらには目もくれない
かかしに手を引かれて
奥の席へ通された
ちゃんと隣に取っておいてくれた

メンバーやツタ、
スタッフらしき人達
あとクラバーの女性も沢山居た
かかしの隣はとげが生えた椅子みたいに
居心地が悪かった

メンバーの一人が近付いてきて
挨拶をしてくれたので少しホッとした
私は緊張してうつむいていたかも知れない
でも最大限の努力をして明るく喋った

すると誰かが
「もしかして 大・阪の彼女??」
とかかしに言った。
とても真剣に言っているとは思えない口調だった
酔っているからかも知れないけど

まわりはごちゃごちゃ喋ってて
誰もその言葉を耳にしてなかったけど
かかしは手をあげて横に振った。



ちがうって意味?
それは確実に否定してる手ぶりだった
彼女じゃないんだ 私
少し期待した自分を馬鹿らしく思って
笑ってしまった



すると訊ねた人は少しびっくりした顔して
隣の席の人に耳打ちしだした。

何が何だか分かんなくて
もういいやって吹っ切った
皆いい人達だったし
話しも合わせてくれるので
かかしを気にする事なく
盛り上がった

しばらくして隣りを見るとかかしが居ない
代わりにメンバーの一人が座っている

辺りを探すと
かなり離れた席で
女性2,3人に囲まれて何か話していた
煙草を頻繁に口に持っていっては
酒を飲み干し楽しそうに笑っている
女性の一人が
かかしの耳元に手をあて内緒話をする
爆笑して彼女の頭を軽くはたいた

いつもこうなんだ
私の知らない世界では・・


酒の分か、いつもより激しく
感情的になってすねてしまった
こうなる事は分かっていたのに
本当に
バカだ。


もう店の窓からは朝日がさしている
帰らなきゃ
仕事があるし。
なんて言うのは口実で
見たくないから。見たくない。


付き合ってくれた人達に
お礼を言って
店を出ることにした
一人が かかしに言わなくていいの?
と言ってくれたけど
とても近付く勇気はなかったので
首を軽く横に振った。



表に出ると太陽がすごくまぶしかった
こんな時間に飲んでたなんて
店の中はまるで別世界だ

だいぶアルコールも抜けてきたので
駅まで歩く事にきめた
徒歩10分と結構距離があるけれど
今は歩きたいから。
嫌な気分を振り払いたい


地下に降りようと階段を一段下りた瞬間
急に目眩がした。
目の前が白く濁ったような視界に変わって
あわや転げ落ちそうになった
何とか意識を保っているので
耳元をつーっと冷や汗が伝い落ちるのが分かる






つづく

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