助手席から見える、刻々と
変わる景色が目に眩かった。
日の明けはじめた東京。
一度だけ通ったことのある湾岸線。

隣で真剣な顔つきをして
運転しているかかしは
シャープに輝いていて、
視界に入るだけで心が安らいだ

家を出てからすぐ、
ちょっと遅れてもいいかと聞かれた。
名古屋まで送ると言うので
驚いて首を振った。
てっきり新幹線のりばまでだと
思っていたので
安請け合いしてしまったのに。

遅れる理由は教えてくれず、
何故か湾岸高速に乗っていた。

車内で、近況を話し合った。
かかしは
また去年みたいな殺人スケジュールで
暇がないと言った。
私も実際忙しく、
会えなくなるのは覚悟していた。
それでも数ヶ月先に出す
曲の大半はもう手をつけていて、
現在は来年の空との活動の準備に
時間を割いているようだ。
私からすれば
その感覚は想像しがたい。
時間を先取りするのは
職業上あることだけど、
それが半年や1年後となると。
改めてかかしをすごいと思った


そうして
30分程走っただろうか、
だんだんとビル街から離れて
遠くに夢の島みたいな
工場が並ぶ南湾岸沿いまで来た

それから大きな基地みたいな
建物が見えてきて、
近付くと低い騒音がして
それが何なのかようやく分かった。


5月19日の朝5時半
国際空港


辺りはすっかり白んで、
遠くに海が見えていた。
見えるというほど
明瞭ではないけれど、
窓を開けると
かすかに潮の香りが運ばれてくる。
車を止めると、
かかしはすぐ外に出て
煙草を吸った。

日の高いうちに、二人で
こんな遠くまで出かけたことはない。
全てが感慨深くて、
離れたくなくて私もドアを開けた。

敷地が
少し高台のようになっていて、
東京近郊が眺められる。
日が昇りはじめて、
海の向こうに赤いラインを引き始めていた

空港内には2台ほど
小型旅客機が滞在していた。
白い機体に日の光が反射し始めて
かかしが私の手を握って、
柵の方へ歩いていった。


天気が良くて
少し肌寒い程度の
気持ちいい風が体を抜けていく。
かかしは
着いてから何も喋ってない。
疲れているからだと思う。
それでも軽く笑みを浮かべてくれている


待つこと数分、
やっとここに来た意味が分かった

真っ赤な二重にも三重にも
見える、ぶれた太い線が
だんだんと半球になりながら
地球の下から現れてきた。
かすかに見える海が
オレンジと白にきらめいて
見た事のないような美しさだった

思わず見入ると
手を握られて
視線が泳いでしまった。
かかしも太陽を見ている。
赤く白く
染まりつつある横顔が
太陽に似て、強く美しいラインだった。

正月に
ハルキ達と日の出を見に行った。
あの時は真冬で
太陽はもう少し、生赤かった気がする。
本当は
景色を共有したい相手は
一人しか居なかった

私はプーで、
ただ疲れて休憩していた
朝の公園。
あの日はビルの間から
白く太陽が昇っていた

ライブ終わり、
明けていく空を見つめて
かかしを待っていた早朝。
夕焼けみたいな朝陽だった


同じ太陽を、
こうして触れ合う距離で
一緒に眺めているなんて、
こんな日が来るなんて
信じていなかった。

色んなかかしを思い出す

髪が長くても
短くても
黒くても銀色でも
痩せていても
もし太ったとしても
変わらず、私は愛している
 

色んな迷いや葛藤が
実は意味を持たない、
一人勝手な迷路だと教えられた。
今あるこの手だけを、
一生離さない。私は、離れない。
そう深く思った


きれいだね、と
一言言った。
それは太陽もだけど、
彼の全てに対してそう言った。
かかしは満足そうに笑って、



「馬鹿みてーに好き」



聞き流してしまう位、
静かに早口でそう言われて、
予測してなかったので
半分くらい上の空で聞いてしまった。
後悔して、
もう一度言って欲しいと思ったけど
「うわ、もう二度と言わない」と
そっぽを向かれてしまった。
それは軽い照れ隠しにも取れて、
また彼らしくない一面を
発見して
心の底から愛しく思った。


ごめんなさい。
次いで自分から出た言葉は、
いつも迷惑かけてばかりでごめん。
そうゆう気の利かない言葉だった。
感激するあまり、
項垂れてしまって
やっぱり何もしてあげられない
自分が情けなかった。

それでも、呆れもせず
額をつついてくれるかかしが居て、
私の方こそ馬鹿みたいに好きだと
そう言うのが精一杯だった


思い返してみれば2年間、
はちゃめちゃだった。
一度も息つくことなく、
色んな事があった気がする。
その度に色んな人に
出会ったり、助けてもらったり、
本当に色々あった。
自分の都合の良いように
解釈している部分ももちろんある。
でもこれは素直な記憶だと
自分では思う。


その後は結局、
名古屋まで送ってくれた。
帰りはSAで5時間寝てしまったと
聞いて、再び自己嫌悪することになった。
私は当然上司にひどく怒られた。
それを伝えると意地悪く高笑いされた。


いつでも
太陽を見上げると
貴方を想っていた

かかしこそ私のshineに違いない




あとがき
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