(はぁっ はぁっ はぁっつ) ぷぁ〜〜!! 何とか間に合った!! あっぶなかった、本当。絶対間に合わないと思ったモン! いつもの山の手線18番のホーム。 ちょうど目の前で、電車のドアが開く。 家からここまで10分で来れたぁ。 我ながら良く頑張ったよ! 改札から、18番まで階段を上り下りしながら走るのが、一番辛かった(泣) でも、今日は遅れたくなかった。 どうしても。千に一つの期待にかけて。 そう考えてる内に、あっという間、 背広や制服の海にもみくちゃにされる。 (何とか、あっち側まで行きたい) ・・・ううん、行きたいような行きたくないような。 胸が爆発しそうにドキドキドキしてるよ。 やばい。 香水や、整髪料の匂いでむせかえる。 私は人より背が低いから、余計に煽りを受ける気がする。 今日はいつも以上に人ゴミ、ゴミ、ゴミ〜。 ちょっと絶望的になりながら、 それでも「すいませーん」と愛想笑いしながら、進む。 (・・明らかに皆うざそうな顔してる。) 胸がちょっと痛い。 どうしよ。やめようか、な。 今朝、遅れかけたのは、鞄の中の物体のおかげで。 (あ、 帽子発見・・今日は、黒だね) テンパリングしたのって、去年ぶりだから、上手くいかなくて。 (もうちょっと進まないと、渡せないよ〜。・・てか、顔すら見えない。(泣) エプロン、粉糖でぐっちゃぐちゃの状態で置いてきちゃった。 お母さん、怒ってるだろうな。 (・・・よし、何とか脱出。) 座席奥の窓から、朝の新しい光がいっぱいに差し込んできてる。 彼の顔の輪郭に、光がふちどりして、キラキラと輝いている。 (やばい、キレイ・・) ・・・・やっぱり今日も寝てる。 予想はしてたけど、こんな日だろうと寝ているんだ。(汗) カバンを握る手に力が入った。 すぐ取り出せるように、ジップ開けてすぐの所に、 それを置いてあるのに。 とても渡せそうにないよ。 心臓がつぶれてしまいそう 先月はバレンタインだったけど、 日曜しか会えない彼に、渡すチャンスがなかった。 それに 勇気もなかった。 本当は"お返しをもらう日"だけど、 別にいいよね? ついでに名前も知りたい。言いたい事も聞きたい事もいっっぱい。 (いつの間にか、 こんなに 好きになっちゃってる。。) 乗り込んでから 5分、経過。 ずっと固まったまんま、動けない。 (自分が、こんなに消極的だなんて知らなかった・・みたい。) 彼がそこにいるのに。 でもこの距離だと、話かけられないし、渡せない。 前に立っているおじさんのせいで、顔も見えなくなってしまっていた。 その時、周りが急に騒がしくなった。 開閉するドア側、私からは人2人分くらい離れていて、よく見えない。 間もなくとんでもなく予想してない事が起こった。 寝てたはずの彼が、立ち上がった。 胸が、息が止まりそうな位ドキっ!とした。 立った瞬間に顔がはっきり見えたから。 やっぱりすごく背が高い。 それからびっくりしたのは瞳の色が茶色かったって事。 長い髪が後ろに束ねてあって、耳の側から数本垂れてる。 (今まで見た中で一番、キレイ。。) そんな顔。 ううん、綺麗だけじゃなくて。目じりが少し下がってて、優しそうな顔。 ブレーキ音を立てて、電車がゆっくり停車する。 そしたら、いきなり彼は窓際を向いて、真横のドアへ進んでいった。 その顔は無表情だけど、ちょっと困ったような笑顔にも見えて、 一言何かをつぶやいて、 そのままこちらに背を向けた。 ??? (降りちゃうの?? 何で???) 私は降りる人の波に押されて、反対側へ後ずさってしまった。 人ゴミの間から、車窓が見える。 彼の黒い帽子が、ホームに浮かんでるように流れてく。 電車が動き出すと、涙が出そうになった。 (・・今日だけ・・何か用事があったのかな。あの駅に。) 変な想像が膨らむ。 泣きそう でも、実際小さく泣き声が聞こえてきたのは、向こう側からだった。 辛うじて見えたのは、大学生くらいの女の人の心配そうな横顔で、 必死に隣の女の人を支えて、慰めているみたいだった。 皆、好奇心いっぱいの目で見ていた。 何となく、何があったのか分かった気がして、 そんな自分もすごく嫌で。 すごく複雑な気持ちになった。 (ここから逃げ出したい 私。 多分、彼女も。) そう考えてたら、あっと言う間に14分経ってしまったらしく。 私は頭が真っ白で、でも鞄の中の物体の事は忘れられなくて、 悲しくて、切なくて、ただじっと足元を見つめてた。 それはあの女の人の気持ちも、 自分といっしょだって分かっていたからかも知れない。 気が付くと、私は自分の意志じゃないのに 体が半分浮いたようになって、後ろへ後ずさった。 ううん、正確に言うと「流された」。 あっ!って声を上げる暇もなくて、体が自由にならなくて そのまま人の波に運ばれて、電車の扉から吐き出されていた。 ぎゃ〜〜〜っ。 こ、こける!! 後ろ向きに団体に流されて、ホームに辛うじて足が着く。 でもとても前を向き直せなくて、人の波が左右に割れる瞬間、 (もう駄目だ。 いいや、こけちゃえ) 一瞬、浮いた。 例えじゃなくて、本当に。 必死に目だけ閉じて、少しでも恐い思いしないように 体を固めてた私は、お腹のあたりに温かさを感じて びっくりして目を開けた。 (全然痛く、ない。 てか・・こけてない。。??) 「あ、あの・・大、丈夫かな?」 頭のすぐそばから声がして、 それから振り返るより先に自分がその人の腕で 抱きかかえられてるって分かって、 めっちゃ赤面状態で、 思わず おもいっきり立ち上がった。 「あっ! うわ、ごめん、ごめんね。」 その声にようやく振り向いたら、 ホームに射す逆光で、一瞬 その人が光に包まれて見えた。 それは本当に一瞬だったけど。 良く見ると、眼鏡のお兄さん。 ・・リーマン?かな。 よくあるスーツに、地味系ネクタイに、黒髪。 何故だか、両手を逮捕されるみたいに顔のヨコにあげて それから真っ赤な顔して苦笑いしていた。 (あは、ちょっと可愛い) 私は熱い顔を冷やしながら「ありがとう」と、 なるべく大きな声で言ったつもりだけど、緊張しすぎで全然声が出なかった。 でも、びっくりしたけど、本当にありがとって思った。 実際こけなくて恥ずかしい思いしなくて済んだし。 「じ、じゃあ!! 僕、次の・・」 眼鏡クンがそう言いかけて振り返った時、電車のドアがちょうど・・閉まった。 え・・。 お兄さんの固まったままの後ろ姿を見て、 正直笑いがこみ上げたんだけど、でもでも、 私のせいで電車行っちゃったんだ・・・(汗)。 降りようとしてたんじゃないのかな? ・・もしかして、私が危ないと思っていっしょに降りてくれたの?? どうしよう。 でも、私は部活あるし。 「うわっ、どーし。。」 「これ、綾部駅の案内図です。私、たまにここで降りるんで。 ・・タクシー、だと、会社まで遠いですか? 私のせいだし・・お金ちょっとしかないけど。。」 (本当に、昼ごはん代しか持ってないけど。 ええいまま!) こうゆう事はちゃんとしとかないと嫌なんだよね。 「いや、、大丈夫だよ。次の電車で多分、ていうか全然間に合うから。 はは」 「本当ですか? でも。。ごめんなさい。」 「・・怪我しなくて、良かったよ。 貧血とか、じゃないかな?」 かぁーーー。/// (何か、それダイレクトな質問じゃない??) 「あっ!いや、何ていうか、違っ・・ごめん。。」 良く謝る人だな〜 助けてもらったのは私なのに。 (・・・そうだ。) 私はその時、ちょっといたずらっ子な顔してたかも知れない。 「じゃぁ、何もできないんで・・ これ、お詫びです。」 カバンから物体を取り出す。 えっと、ピンク・・じゃなくて、オレンジの袋の方だ。 よく確認してお兄さんの目の前に差し出すと、 案の定 混乱した様子で眼鏡を少し手で押し上げた。 「あの、でも・・これ」 「いいんです! これも何かの縁なんで・・ (なんちゃって。)」 ぺこり。 思いっきり深くおじきしてから、階段へと急ぐ。 あはは。 かなり受ける。 でも、もう会うこともないしね。 ミッコたちのために作ってきてて良かったぁ お兄さんに渡した焼き菓子には「ミッコ&ちよ」 って 汚いデコペン字で書いてある。 何だか、名前も知らないお兄さんのお陰で、 足取りが少し軽くなったよ。 (ありがと。) そう思うと、いきなり彼を思い出して 胸の奥がチクっとした・・・。 〜続〜 トップ