あとがき2---

KARTで、huvcoolがイベントするのは
決まって土曜日なので
休みを取るのは仕事柄、至難の事だった。
何せ大阪⇔東京間は
すぐ行ける距離ではないから
最低でも半日暇がないと新幹線に乗れない。
そんなわけで、飛行機嫌いを克服する機会がきた。

もう6ヶ月経ったけど、
そのうち3度しか会えていない。
会えた時間はというと
1時間と、3時間と、一番最近のでは20分。
でも比率にしたら2年前よりは断然多いと思う

あまり会えなかったのは
当然の事だけど私の都合より、
かかしの多忙に因る所が大きい


2003年最後の日、
この日だけはすんなり休みが
(というより会社規約で全員お休み)
取れて、久々に余裕を持って東京を訪れた。
元旦は年始挨拶出勤なので、昼までフリーだ

大晦日はどこのハコでも
カウントダウンのイベントもあいまって、
毎年大賑わいになっているようだ。

ハルキに年末は行けないと告げると
ものすごく立腹してたけど、
理由を聞くとそれ以上何も言わず
恒例の初詣は朝イチの飛行機で
途中参加するように、と念押しされた。

静花にも一緒に東京行きを勧めたけど、
今年は忌事があって実家に帰るらしかった。
27日に早々と忘年会をして別れた。

予想していた地獄の飛行旅行は
とんでもなく快適で、しかも
1時間するかしないかで
着いてしまって拍子抜けした。


KARTに着いたのが午前2時40分頃で、
一番のピークタイムだった。

東京に着いたのは21時だったけど、
しょっぱなから行かなかった。
いや、とても行けなかった。
今までとは勝手が違う。

「かかしの彼女」という
周知の事実が私には重過ぎる。

ところがKARTに行くと
予想外の事が沢山あった。

以前に東京のハコを
回っていた頃に知り合った
友達が、メールを読んで
駆けつけてくれていたり、
4月にここで言葉を交わした数人が
私の事を覚えてくれていたりで
緊張をかなり解してくれた

全くの酒抜き状態で
話した事や状況は一挙一動、
覚えている自信がある
(あるだけで実際は間違いだらけかも知れない)



ステージにはちょうどTigerと
その弟らしき、良く顔も声も似た
幸(こう)が共演していた。

普段はめったに見れない様な
組み合わせが、この日ばかりは無礼講で
皆の熱気と体の揺れを増長していた

歩くと必ず誰かにぶつかるような
寿司詰めのフロアで、
大半が酒で気持ちよくなって踊っていた

顔見知りと遅い新年の挨拶を交わす

人が多すぎて訳が分からない。
KARTの間取りにも慣れていないから
かかしに言い渡された場所がどこなのか知れず、
とりあえず後方の、
少しでも人があぶれて居る場所を
捜しながら間を縫って歩いた。

最初にバーの辺りで、
若い男の子と
財布の見せ合いをしている数を発見した。
ズボンにチェーンしてぶらさげているせいで
紺のトランクスがちらちらと見えていた。

「数さん、ウォレットかっちょいっすね!」
「んあ? あ、これ?・・欲しい?」
「くれるんすか?」
「いや、やらないけど・・」
「くださいよ! apeです、よね? 同じの買いますっ」
「・・このチェーンは売ってるけど、財布はねえよ〜」
「え?まじっすか?」
「うん、特注。」
「すげぇ」

「トランクスも特注っすか?」
「ははっ、いや、・・これはやるよ?」
「いや〜。。」

話しかけるにはあまりに面識がないので、
とりあえず、また辺りを見回した。
今はとにかくかかしに会いたい。

その時、
前から話しながら歩いてくる
男性を発見した。

この機会を逃しては他にない、と思い
前に立ち塞がると相手は間もなく破顔した

「・・あーれ 今日は一人?
あ、そっか。かーしだ・・良かったねぇ。」

じゃ後で。と連れ立っていた男性に
手をふったエンジは、
いつもの調子で飄々として、
少し前かがみになって笑っていた。


「久しぶりだね。電話したのいつだっけ? あ、俺がしたんじゃないね」
「ふーん、そっか。何かすごいね。
・・・正直、うまく行かないだろって思ってたけど。。あ、ごめんね」

「じゃぁこれからは結構会うよね?また遊びに行っていい?」
「うん、冗談(笑)。」
「まだ色々紹介してないしね。来週はちゃんと。今日は数の女も来てないし。」
「俺の彼女は会うの難しいかも。 先2ヶ月はバリ島。
んー?まぁ撮影とか色々。よく分かんない。」
「そうだな、4年位付き合ってるかなぁ。 でも会う回数少ないからさ」
「あと、さっきのが岡田ジュンヤってゆうチーフ(笑)」
「あ、もう行くわ。かぁしは上だから。階段上がってまっすぐ!」

とても早口で、詰め込んだように
沢山の事を聞いて頭が混乱した。
どんな事でもさらりと言いのける彼には
やっぱり敵わないと思った。


十分程の立ち話で場所を確認した後、
ロッカールームの脇にある
細くて下が透けてみえる階段を登ったら
そこは長いテラスみたいな廊下になっていて、
突き当たりにドアがあった。

ここからはダンスフロア、それにブースが
一望に見下ろせて、どれだけ沢山人が居るか確認できた。
扉が黒塗りだったら、入るのを躊躇しただろうけど
ガラス張りで中の様子がはっきり見えたので、
スタッフらしき数名が行き来している合間を縫って
その部屋に入った。


やっとかかしに会えた。
それから向かいには空が座って居て、
話の展開からかかしは笑っていたけど、
やっぱり顔見知りだと言う事を言っておけば良かったと思った。

「お、来た。やっと来たって」
「顔に痕がついてるよ。」
「嘘、嘘。」

「寝てただろ〜。 ъqがったの1時ってどうゆうことだ(笑)。
空と年越しちゃって俺は悲しいよ。 まぁ、、あの部屋はくつろぐからな」

「そうかぁ? 広すぎて落ち着かん」
「空はさぁ・・家具とベッドのすき間でよく寝てるもんな。」
「わざとじゃねぇよ。」
「何?すわんなよ。 ここ。」

かかしの隣に座ると、
スタッフが半笑いで通り過ぎる。顔が熱かった。

「何か、空さ キーリング壊されたって。」
「そう。ああ、あの女だ、って。」
「根に持つなよ(笑)」
「いや、別に。 ただ人々がグシャグシャ踏んで原型留めてなかっただけだ」
「いじめんなよっ。つうかやっぱ知ってたんじゃん」
「さっき思い出した、かなあ」

初めてKARTに来た時、空が落とした物の事を思い出し、何度も謝った。
あの時は、二人の関係性も知らなかったし、自分でも
冷静じゃなかったと反省している。
空はぶっきらぼうに見えるけど、とても気遣ってくれているのが分かって嬉しかった。

「じゃ、あとは二人でよろしくやって。」
「お、後で。ワンオケで呼べ」
「おう」

空がブースに降りていった頃、部屋のモニター見ながら
二人で少し、本当に少しの間だけど話しをした。

人前でもお構いなく髪をぐちゃぐちゃにしてくれた。

疲れてるけど、痩せてるけど、
元気そうで、私はとても安心できた。
目を細めて笑ってる。私を見て笑ってくれている。



やがてhuvcoolの出番となり、
私達は別々に出て、別々の場所に立つ。
今はこの状況を素直に受け入れる事ができる。

久しぶりの3人の声とビートに
後方で心揺るがされていると、これもまた
久しぶりに、ラフなジャケットを羽織ったツタに会った。
思えば、今の環境があるのもその要因を作ってくれた彼のお陰だ。
滑るように軽快なマイクからの声と、眩しい照明の中で
心に残る話をもらった。

「おっ、お久しぶり。」
「ここでの一件、ちょっと凄かったね。」
「いや、あれ、かぁしがナンパに突っ込み入れるなんてね。
というか、普通しないぞ(笑)」
「いやいやいや、俺は何もしてないから。 ただ面白いなぁ君達、って感じで。」
「君はさ、もっと自信持った方が良い。 まぁあんなだけど人柄は保証する〜よ(笑)。」
「何でって?・・そりゃ、かぁしはだいぶ前から気に入ってたし」
「え? え?あっ そう君の事だよ。」

「ブースに上げるなっつて、五月蝿かったよ。 だって、俺スパルタじゃん(爆)」
「もっと自信持ってさ、な! 俺は傍観してて楽しいし(笑)」


そうこうしている間に午前4時。
まだまだ熱気の下がる事のないフロアで、
あの細ドレッドの女の子にも会い、
少しずつ、私とかかしを取り巻く環境が
変わっていくのが分かった。

「何? 誰?あっ、かかしっちの彼女? 初めましてぇ。
1月くらいまでスタイリングしてたんだ。かかしっちの。
剛毛なんだよね、意外と(笑)。
・・・そこの30男!人の事言えないとか言うな!(笑)」

少し遠くからTiggerの野次が飛んできて、
思わず苦笑いした。
何もかもが疑わしく、かかしを信用できなかった自分が
馬鹿みたいだと思った。

4時半頃、KARTを後に、かかしと帰途に着いた。



_つづく_

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